Excelで資料を作成する際、セル内の文字を見やすくするために改行機能を使っている方は多いのではないでしょうか。
確かに便利な機能ですが、実はその使い方、データの再利用を考えるとあまり推奨されません。
なぜなら、見た目には整っていても、Excelのデータ処理能力を大きく妨げる要因になり得るからです。
今回は、セル内改行がなぜ問題を引き起こすのか、その理由と具体的な代替案をご紹介します。
今後のデータ管理をよりスムーズにするための一助となれば幸いです。

Excelのセル内改行が「推奨しない」と言われる根本的な理由

「1セルに1データ」という原則に反するため

Excelを単なる表計算ソフトではなく、データベースとして活用する場面は少なくありません。
その際、最も重要になるのが「1セルに1データ」という基本原則です。
このルールを守ることで、後の集計や分析、並べ替えといったデータ加工がスムーズに行えます。
セル内改行は、1つのセルに複数の情報（例えば、名前と備考など）を詰め込む行為であり、この大原則から逸脱してしまうのです。
データ活用の観点から見ると、これは非常に大きな問題点をはらんでいます。

見た目とデータの構造が一致しなくなるため

セル内で改行を行う主な目的は、セルの幅に文字を収め、見た目を整えることでしょう。
しかし、Excelはセルに入力された情報を「ひとかたまりのデータ」として認識しています。
人間が「2行のデータ」と見なしていても、Excelにとっては「改行コードを含んだ1つのデータ」でしかありません。
この「見た目」と「内部的なデータの構造」の間に生じるギャップが、後述する様々なエラーの直接的な原因となります。

目に見えない「改行コード」がデータに混入するため

キーボードの「Alt + Enter」でセル内改行を行うと、セルの中には目に見えない「改行コード」という特殊な文字が挿入されます。
これは単なるスペースや空白とは全く異なるもので、プログラムにとっては特別な意味を持つ制御文字です。
この改行コードがデータに紛れ込むことで、Excelの各機能が予期せぬ動作をしたり、正しくデータを認識できなくなったりする事態を招くのです。

セル内改行が引き起こすExcelの代表的なエラー

並べ替え（ソート）が正しく機能しない

セル内改行を含むデータを並べ替えようとすると、意図した通りの順序にならないことがあります。
Excelはセル内の先頭の文字を基準にソートを行いますが、改行コード自体も文字として認識されるため、並び順が狂ってしまうのです。
本来同じグループにまとまるべきデータが、ばらばらになってしまうケースも少なくありません。

抽出（フィルター）でデータを見落とす

フィルター機能を使って特定のデータを抽出しようとする際も、セル内改行は障害となります。
フィルターのドロップダウンリストには、改行された2行目以降の情報が表示されないことがあります。
その結果、本来抽出されるべきデータがリストに現れず、気づかないうちに必要な情報を見落としてしまう危険性があるのです。

関数（VLOOKUPなど）で正しい結果が得られない

VLOOKUP関数やCOUNTIF関数など、特定のデータを検索・集計する関数を使う場面で、セル内改行は致命的なエラーを引き起こします。
検索キーとなるセルに改行コードが含まれていると、見た目が全く同じ文字列であっても、検索対象のデータとは「一致しない」と判断されてしまいます。
これにより、「#N/A」エラーが返されたり、正しい計算結果が得られなくなったりします。

コピー＆ペーストで形式が崩れる

セル内改行されたデータをコピーし、メモ帳などの他のアプリケーションに貼り付けると、改行がそのまま反映され、1つのセルだったはずのデータが複数行に分割されてしまいます。
これによりデータの形式が崩れ、再利用する際に手作業での修正が必要になるなど、余計な手間が発生してしまいます。

セル内改行の代わりに推奨されるExcelのデータ管理方法

「折り返して全体を表示する」で見やすくする

セルの幅に合わせて文字列を読みやすく表示したいだけであれば、セル内改行は不要です。
「ホーム」タブにある「折り返して全体を表示する」機能を使いましょう。
この機能は、データの内部構造を変えることなく、見た目だけを自動で調整してくれます。
セルの幅を変更すれば、表示も追随して変わるため、柔軟なレイアウトが可能です。

補足情報は「コメント機能」に記載する

データ本体に付随する補足情報や備考を書き留めておきたい場合は、「コメント機能」（新しいExcelでは「メモ」）の活用が最適です。
セルに直接情報を書き込むわけではないため、「1セル1データ」の原則を崩すことがありません。
セルにマウスカーソルを合わせると情報が表示されるため、データシートをすっきりと保つことにも繋がります。

情報を「目的別に列を分ける」で管理する

そもそも1つのセルに複数の情報を入れたい、という状況自体がデータ管理の方法を見直すサインかもしれません。
例えば、「氏名」と「部署名」を同じセルに入れるのではなく、「氏名」列と「部署名」列のように、情報の種類ごとに列を分けましょう。
これがデータベースにおける最も基本的で強力な整理術です。
はじめは手間がかかるように感じても、後のデータ分析や活用の幅が格段に広がります。

まとめ

Excelでのセル内改行は、見た目を整える上で便利な一方で、データ活用の観点からは多くの問題を引き起こします。
「1セル1データ」という原則を崩し、目に見えない改行コードが混入することで、並べ替えや関数が正しく機能しなくなるのです。
このような事態を避けるため、「折り返して全体を表示する」機能で見栄えを調整したり、補足情報は「コメント機能」を使ったりすることをお勧めします。
そして何より、情報は目的別に列を分けて管理することが、データ活用の第一歩と言えるでしょう。